あなたの犬はハッピーですか?(前)〜動物愛護vs動物福祉〜
2015.11.12
あなたの犬の心は満たされていますか?
あなたの犬の体は健全ですか?
あなたの犬は、本来の犬として満たされていますか?
… あなたの犬はハッピーですか?この3つがバランスよく満たされていますか?
最近よく聞かれるようになったのが「動物愛護」という言葉。でも実はこの愛護というのは日本独特の表現だと知りました。犬や猫などの扱いに関する法律は少しずつ改善されてきていますが、ヨーロッパやオーストラリア、アメリカ(の一部の州)に比べれば日本はまだまだ途上国です。
欧米では動物の福祉と表現されます。福祉=ウェルフェアWelfare。動物の飼育状態を向上させるための活動のことをいい、「動物が肉体的・精神的に健康で幸福であるかどうか、ということを指し、人間による動物の利用を認めながら、動物によってより良い生活をさせるという考え方が全体にある」そうです。
食肉用の動物の扱い方から発展したもので、動物を殺して肉を食べることを良しとしながらも、そのために動物に過剰な苦痛やストレスを与えずに利用する、というものです。
これに対して日本の「愛護」というのは、英語にしようとすると 愛=Love とか 同情・哀れみ=compassion といった抽象的で感情的な訳にしかなりません。決定的に違うのは、この考え方は主体が人間で、感情的な部分が含まれ、生かすことに主眼が置かれているということ。命さえあればどんな飼い方でもいいのか?という部分について追求が足りないというのです。
では「福祉」と言えばいいのか?といったらそうでもありません。日本語で「福祉」というと、これまた欧米の福祉とは違った「弱い人を助ける」「国の支援」というイメージがあるからです。
動物の福祉は具体的に何かというと、動物福祉の先進国イギリスが挙げているのは、
①飢えと渇きからの自由 Freedom from hunger and thirst.
②不快からの自由 Freedom from discomfort.(快適な寝床・安心できるクレートなど)
③痛み、けが、病気からの自由 Freedom from pain, injury or disease.
④正常な行動を発現する自由 Freedom to express normal behaviour.(十分な空間、適切な施設、同種の仲間との交流)
⑤恐怖と苦悩からの自由 Freedom from fear and distress. (精神的苦痛を避けられる)
主に繁殖業者や預かり業の課題ではありますが、家庭犬で考えてみてひっかるのは…
②不快からの自由。家の中に安心できる休息場がない犬や、狭いサークルの中に汚れたトイレと一緒に長時間お留守番させられる犬がどんなに多いことか…。その結果、サークル嫌いになっている犬も少なくありません。
③犬の健康を無視した繁殖による先天的異常の多い子犬の繁殖。もともとの骨格が異常であれば、痛みをともないますし、けがもしやすく、遺伝病が発症する可能性も高い。特に人気の小型犬の歩き方をよく見てみてください。目が肥えてくれば、膝や腰が悪くて歩き方がおかしい犬がいかに多いか見えてくると思います。
④の十分な空間が提供されていない、と言えます。さらに問題は「同種の仲間との交流の機会」。これが不十分で犬見知りになったり家の外が苦手になり、普通にお散歩ができなくなってしまう犬がたくさんいるからです。(これは家庭に来る前の繁殖業者や販売業者の問題も重なりますが)また、「リーダーウォーク」を偏って理解しているのか、お散歩中に他の犬との交流をいっさい断たれ、欲求不満の犬もよく見かけます。また、正常な行動をとるチャンスが与えられないとそのはけ口として、同じ場所を行ったり来たりするなど、不自然な行動として現れる場合もあります。
⑤恐怖と苦悩によるストレス…これに関しては、上記のどれが欠けていても感じるものでしょう。ただ、見る人が見れば明らかでも、例えば初めて犬を飼う人は「そんなものなのだろう」と思うだけでわからない場合があります。
(加隈先生=下記参照=は、リストの順番にこだわっていらっしゃいましたが、納得できます)
食用を含めた「人間による動物の利用を認める」という考え方は、難しい問題です。牛は殺してもいいけど犬はダメなのか?では、ペットとして飼われることもある、ある意味犬よりも賢いとも言われる豚は?最近の研究では痛みを感じるとされる魚は???
人によりいろいろな考え方や立場があるので、それについて議論はしません。いろいろなケースがあると思います。
ただ、動物福祉は、「私」が犬をかわいがる、とか、「私」がかわいそうな犬を救う、ではない。私たち人間の生活を豊かにしてくれる犬たちが、その動物としてどう生きるのか、どうすれば少しでもその生活を向上できるのか、を考えてみたいと思います。
人間は、相手がどう感じているかを気づかう能力があります。でも実際は、相手が人間だって本当のところはわからない。それを、まったく別の動物の気持ちになる、というのは決して簡単なことではありません。犬なら犬の習性を知り、犬の状態をよく観察すること。それが第一歩ではないでしょうか。
(横浜市動物取扱責任者研修会、加隈良枝先生(帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科)のレクチャーを参考にしました)
(次回:あなたの犬はハッピーですか?(後)〜犬の本来の姿とストレス〜)