チキンワークショップ⑪アメリカの競技犬の世界に変化
2014.09.26
チキンワークショップが正式にアメリカで再開される前にロスで開かれた3日間のワークショップには、全米でもトップレベルのオビディエンス競技(服従訓練競技)の“選手”(コンペティター)が数人参加していました。アメリカン・ケンネル・クラブ(AKC)や他の団体の服従訓練競技会は各地で毎週のように行われていて、日本とは比較にならない競技人口です。(5000人くらいはいると思われます!)
その中の一人であるマーガレットが、私のパートナーとなりました。彼女の競技犬は、チェサピークベイ・レトリーバー。レトリーバーのいう名前はついていますが、ラブラドールのように服従訓練に向いている犬種ではありません。20年以上の競技キャリアです。
もうひとりは、ローラ。ローラはかなりの長身なので競技犬がシェルティだと聞いて驚いたのですが、「飛行機のキャビンに乗せて競技会に連れて行けるから」だそうです。
長年競技に入れ込んできたローラですが、ここ数年の「陽性強化」の波を受け、陽性強化に傾倒してきました。それでもまだ服従訓練競技の世界では、トップレベルで競技するためには「陽性強化」+「失敗したら多少の罰は仕方ない」という考えが主流です。彼女もそう思っていたのですが、それでも「本当に叱らずにできるのだろうか?」を自分で確かめたくてワークショップに参加していました。
ローラの「罰」は、“たいした罰”ではないと考える人も多いでしょう。
「シェルティは神経質な犬種だから、罰といってもかるくスクラッフ(犬のあごの周りをつかんで目で威嚇しながら軽く揺する“リーダーはだれかを示す”ためとされる罰の種類)程度」だったそうですが、チキンワークショップを受けてからも最近までは完全には吹っ切れなかったそうです。
「本当にいっさいの罰を与えなくなったのはここ1年」だそうですがちょうど今、これまで競技してきた年上の犬が引退し、若い犬と競技を始めました。
前の犬は「クロスオーバー」(もともとは罰を使ったトレーニング方法から褒美式に変えた犬のこと)だったけれど、今度の犬は完璧にいっさい罰を与えることはしていません。
「友達にはきっと、“ローラは陽性強化トレーナーに転身した”、本当にできるだろうかって半信半疑の目で見られているのよね」と話しています。
これまでのところ、高得点をたたき出して優勝していますが「まだ初級レベルだから、本当に試されるのはこれから」と本人は謙虚です。
シュッツフント(警察犬の仕事を模倣したドッグスポーツ)の愛好者も2人いました。レベル4でパートナーだったケイトは「真剣な愛好家」(serious hobbyist)と呼ばれるドッグスポーツが趣味の一般の飼い主さん。そのドッグスポーツはシュッツフントなので一般でもちょっと“特別な一般”ではありますが、トレーナーではありません。愛犬はベルギーシェパードのタービュレンです。
シュッツフントと言えば警察犬の競技。防衛訓練ではヘルパーの袖に噛み付くトレーニングをしますが、防衛に使われる犬はもともと噛むのが大好きな犬種です。犯人に必要以上の怪我を負わせないため、どんなに興奮していても警察官(ハンドラーや飼い主)の指示に従わなければなりません。その「信頼性」をトレーニングするためには、犬が指示に従わず、すぐに袖を放さないとスパイクカラーを引っ張ったり電気ショックを与えてトレーニングするのは「当たり前」のスポーツです。
でも、ケイトは最近はいっさい罰は与えずに競技をしています。「一緒に練習する仲間は罰を使っているけれど、私にはもう必要ない。使わないでできることがわかったから」と言います。袖を噛まれる「犯人役」は、専門のヘルパーに頼むしかないのでこれを実践するのはなかなか大変なことだと思いますが、防衛部門で99点など良い成績を上げています。
もう一人は元米海軍の特殊部隊Navy S.E.A.L.S.だったクリス。クリスは保護施設から引き取った1歳にならないジャーマンシェパードのシュッツフントのトレーニングを始めたところでした。
ボブ・ベイリーは「罰を使わない」わけではありません。「罰を与えない」でもトレーニングはできるので「使わないことを選んでいる」と言います。
補足:身体的に罰を与える以外にも、スクラッフ&シェイクのほか、大声で怖い声を出したり、犬がちょっとよそ見をしたらリードをピシッと引いて軽く首にショックを与える、スワレと言ってすぐに座らなかったら犬の腰を地面に向かって押し付ける、横をついて歩いているときにちょっと前に出たらリードを引っ張って戻す、遅れたら引っ張る・・・といった行為も犬に従うことを強要するトレーニング方法です。⑫良いトレーナーは辛抱強い