「褒める」だけでは犬は人に従わない(前編)
2014.09.09
最も古い犬の服従訓練は、「いい子だ」「グッド!」などの「褒め言葉」だけで犬は人間に従うもので、オヤツを使ったり、撫でるなどして「甘やかしてはいけない、その方が犬は飼い主を尊敬する」という考えでした。「スワレ」と言って座らないと犬の腰を地面に向けて押したり、リードを引っ張るなどして無理にでも座らせる、というしつけ方です。
今でも「オヤツを使うと犬を甘やかすことになる」という“古い”考えのトレーナーもいますが、そのような人でも、たいていは褒めながら犬を「撫でる」ように指導します。
では実際に、「褒める」だけで犬は人に従うのでしょうか?
最近、「褒め言葉」と「撫でる」の褒美としての価値を比較した研究が発表されました。
部屋に90センチメートルほど離れて2人(見知らぬ人または飼い主)の人が椅子に座っています。そこに犬を連れてきて、一人は高い声で「いい子ね〜」などと犬に話しかけ、もう一人は声をかけずに犬を撫でます。その後、犬を部屋の反対側に連れて行き、放します。一人は犬が近くにくると声をかけ、もう一人は撫でます。そして犬がどちらの人の近くに何分いたかを計りました。その結果、飼い主であろうと見知らぬ人であろうと、犬は撫でてくれる人の近くにより長い時間いました。
もう一つの実験では、一人の人が声をかけているときと無視しているときの犬の行動を観察しましたが、いずれも犬は近寄ってきませんでした。
ただ、この研究で犬の喜ぶことがわかっても、褒めるだけで指示に従うようになるかはわかりません。それは1967年にすでに米陸軍の委託を受けてメリーランド大学で行なわれています。
このトレーニングは、“旧式”のやり方で、犬にスワレ、フセ、コイ、ツケ、マテを教えました。「スワレ」と言われて15秒以内に座らないと、腰を押されるかリードを引っ張って座らされ、すわると明るい声で「グッド・ドッグ!」と褒めて8日間トレーニングしました。
トレーニングが有効かどうかは犬の反応の早さで計られましたが、平均値は14秒。褒めるだけではまったく効果がありませんでした。
次の17日間のトレーニングでは、褒め言葉に撫でるを加えました。「撫でる」とは、5秒間犬の頭または耳をゆっくりなでたり、犬のあごの下をもむこととしました。すると「スワレ」などの指示に対する反応は一気に平均5秒に改善しました。
続いて犬が全ての動作をしっかり覚えたあとに、「グッドドッグ!」の言葉だで服従訓練を維持できるか調べました。10日間、褒め言葉だけ。すると犬の反応は平均15秒に後戻り。次の10日間はまた「撫でる」ことにしたらわずか数日で犬の反応は回復しました。
スタンリー・コーレン氏はこの結果を、「褒め言葉」は褒美にはならず、それだけでは犬に基礎訓練を行なうことはできないし、すでに学んだ動作を維持することもできないことがわかると言っています。
最近は、スワレやマテなどを教えるにはご褒美にオヤツ(食べ物)を使う方が有効だということが明らかになっているので、多くのトレーナーが、「飴と鞭」・・・オヤツ・撫でる(飴)と「押す、引く」(言うことを聞かなかったら力づくで従わせる)を組み合わせる「中間」のトレーニングをするようになりました。鞭を使わないのがもっとも犬を尊重したトレーニングですが…。
オヤツを使うことに抵抗のある人は、犬が従ったら「撫でて」あげましょう。ただし、撫で方、褒める時の声のトーンなどが間違っていると逆効果です。
撫でられるのが好きでない犬には「撫でる」ことは褒美になりません。また、1日の大半を犬舎で過ごす犬、庭で1匹でつながれて過ごす犬にとっては撫でられるという社会的な接触は価値の高い褒美かもしれませんが、つねに飼い主さんのそばにいて「ただ」で撫でてもらっている室内犬にとって「撫でてもらうこと」の価値はまったく違うでしょう。
犬を早く、うまくしつけるポイントは、その犬が喜ぶ「価値の高い褒美」を知ることです。 (後編を読む)
参考
Is Verbal Praise Enough Reward for Dog Obedience Training? How does petting compare to verbal praise as a reward for dog training?
September 3, 2014 Stanley Coren, Ph.D. Psychologytoday.com
Feuerbacher, E.N. and Wynne, C.D.L. (2014). Shut up and pet me! Domestic dogs (Canis lupus familiaris) prefer petting to vocal praise in concurrent and single-alternative choice procedures. Behavioural Processes. 2014.08.019
Mc Intire, R.W. & Colley, T.A. (1967). Social reinforcement in the dog. Psychological Reports, 20, 843-846
関連記事